大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和47年(う)1601号 判決 1972年9月25日

控訴人 被告人

被告人 富永龍一

弁護人 大石隆久

検察官 味村治

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人大石隆久の控訴趣意書に記載されたとおりであるからこれを引用する。

論旨第一点(事実誤認、法令適用の誤りの主張)について。

所論は、原判決は第一の事実について、常習と認定し、暴力行為等処罰ニ関スル法律第一条ノ三を適用しているが、被告人の本件器物損壊の事実は明らかであるとしても、被告人の器物損壊の前科としては、昭和四六年一〇月一四日浜松簡易裁判所において罰金五千円に処せられた一件があるだけであつて、暴行、脅迫の前科はなく、本件も僅か一件の器物損壊の事実に過ぎないから、これを被告人の習癖によるものとして、常習性を認定した原判決は事実を誤認したものであり、かつ本件については刑法第二六一条をもつて処断すべきであるから、原判決が暴力行為等処罰ニ関スル法律第一条ノ三を適用したのは法令の適用を誤つたものであるというのである。

しかし原判決が証拠として挙示している被告人に対する前科調書並びに昭和四六年一〇月一四日付略式命令謄本によれば、被告人は、所論引用の、器物損壊罪による罰金五千円の前科のほか、昭和四五年一二月五日浜松簡易裁判所において傷害罪により罰金一万五千円に処せられているもので、しかも右器物損壊罪の犯行の内容については、原判示第一の事実とその被害場所が同一であり、その被害物件も同種のものであつて、その犯行の態様も酷似していることが認められる。ところで暴力行為等処罰ニ関スル法律第一条ノ三にいわゆる常習とは、同条にかかげる刑法各条に規定する各個の犯罪行為についての常習性のみを指すものではなく、これらの犯罪行為を包括して考え、かかる暴力を要素とする犯罪行為を習癖的に犯す場合をも含むものと解すべきであるから、前記傷害罪の前科もまた右常習性を認定する資料となり得るものというべきである(昭和三一年一〇月三〇日最高裁判所第三小法廷決定、刑集一〇巻一〇号一、四九三頁参照)。そして記録によれば、原判決は被告人の前記器物損壊罪の前科のほか、前記傷害罪の前科をも根拠とし、これらの前科があるにかかわらず、原判示のように被告人が刑法第二六一条の器物損壊の犯行を敢てした事跡により、しかも右器物損壊罪の前科の犯行と近接してほぼ同内容の犯行を同一場所で犯したことをもつて、被告人には暴力行為等処罰ニ関スル法律第一条ノ三所定の常習性があるものと認定したものと解されるので原判決には所論のような事実誤認も法令適用の誤りもない。論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 石田一郎 判事 管間英男 判事 柳原嘉藤)

弁護人大石隆久の控訴趣意

第一点事実の誤認並に法令適用の誤

原判決は罪となるべき事実第一の器物損壊について、常習と認定し、暴力行為等処罰に関する法律第一条の三を適用しているが、被告人の器物損壊は明らかであるとしても、それが被告人の常習によると認定したのは事実の誤認であり、且つ暴力行為等処罰に関する法律違反第一条の三を適用したのは法令の適用を誤つている。被告人の器物損壊の前科としては、昭和四六年一〇月一四日浜松簡易裁判所宣告の罰金五千円が一件あるだけであり、その他暴行、脅迫の前科はない。本件も僅か一件の事実に過ぎず、それが被告人の習癖によるものとして、常習性を認定することは不当である。

従つて、本件器物損壊は常習性を否定し、刑法第二六一条をもつて処断すべきである。

(その余の控訴趣意は省略する。)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例